元料理長が教える 今さら聞けないHACCP講座

 

第10回 5Sの意義

 

2019年2月18日

 

 

HACCPについて講演などをすると、「うちの施設は5S(ごえす)をやっているから、無理にHACCPを入れなくてもいいですよね?」といった質問を受けることがあります。HACCPと5Sの関係について少し誤解があるようですので、ここで整理しておきたいと思います。

 

5Sは、主に製造業の現場で普及しているスローガンです。日本流のモノづくりの基礎となる基本的な徹底事項であることから、日系メーカーの海外工場などでも、スタッフ教育と職場環境の整備を兼ねて、5Sが導入されています。

 

5SとHACCPは相乗効果を生む

ただし、5SとHACCPとを、一つのシステムの枠組みの中で無理に関連づけることは避けた方が無難だと思います。なぜなら、HACCPは食品に関する事故の防止を目的とした、米国発祥の衛生管理のシステムであり、5Sは効率的な生産活動を目指した、日本発祥の職場管理スローガンです。重なる部分は多いのですが、目的が異なるため、相互に関連づける設計にはなっていません。5Sを無理に組み込んだ「日本版HACCP」などといった独自の理論を構築したりすると、国際標準から離れるどころか、国内でも自分たちの施設でしか通用しないガラパゴスなシステムになってしまいます。

 

5Sが不要だという乱暴な議論をしようというのではありません。むしろ逆です。一般衛生管理を徹底するうえでは、5Sは大いに役立ちます。「5Sをやっていたが、HACCPを導入するので5Sは止める」といった二者択一の関係ではありません。5Sがきちんと身についている施設では衛生管理に対するスタッフの意識レベルが高く、HACCPのより着実な運営が期待できるはずです。

外の目も活用して、清掃の徹底を

5Sの中身についてこの連載であえて言及するとすれば、清掃についてでしょう。私たちは見えているもの、認識しているものが正常な状態にないときには、修正し、対応をする必要性を感じます。しかし、「知らぬが仏」とはよく言ったもので、見えていないものについては、それが好ましくない状況にあっても、行動を起こすことはほとんどありません。

 

例えば、冷蔵庫の調子が悪いとものすごく神経質になりますよね。庫内温度の表示を見て、普段と1℃、2℃違えば「どうしたんだ?」と。その一方で、冷蔵庫の上部やフィルターにたまっているホコリの存在には無頓着だったりします。ホコリに付着した菌やウイルスが空気中を舞って他の食材や氷などに付着し、食中毒の原因となる可能性が高いのにも関わらず、自分の目線より高い位置で視界に入らないために、意識が向かないのです。

 

ですから、清掃では、清掃状態のチェックポイントに死角がないかどうかを、常に意識するようにしましょう。以前、「自分たちだけだと目が慣れてしまって汚れに気がつかない」という話をしたかと思います。厨房の衛生チェックを手掛ける外部専門家の力を借りる、ホールやフロントなど普段は厨房に入らないスタッフに清掃状態のチェックを依頼する、などの対応が有効です。

「まとめ」に代えて

 

HACCPを導入することによって、リスクがゼロにできる、つまり、「食中毒や食の事故が絶対に起こらない」と言い切れるのであれば、HACCPチームはいろいろな取り組みを行いやすくなるはずです。「食中毒リスクをなくせますから、この機器を導入してください」などと経営陣に要望をすると、稟議が通る可能性が高くなるだろうと思います。

 

しかし、現実は違います。HACCPはゼロリスクを保証するものではありません。食材の仕入れや厨房スペース、機器、人的なリソースなど、多くの前提条件を踏まえ、食味を落とすことなく、食品の安全性を高めていくことを目指したシステムです。何より、HACCPはシステムの導入で完成、認証を取得したら終わり、ではなく、365日、日々の営業の中で工夫や改善をしながら、より高い信頼性を構築していくことが必要です。その分、取り組み甲斐のあるシステムでもあると思います。

 

これまでの連載が、料理人を始めとするフードサービス関係者がHACCPに前向きに取り組むきっかけとなり、施設の衛生管理レベルの底上げに貢献することを祈っています。ご愛読、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

講師紹介

 

坂場一昭(さかば・かずあき)

坂場一昭(さかば・かずあき)

 

1952年1月東京生まれ。70年から調理の道に入る。京王プラザホテルを経て、80年にセンチュリーハイアット東京(現ハイアットリージェンシー東京)に入社。ガルドマンジェアシスタントシェフ、宴会シェフ、宴会厨房改修プロダクトマネジャーや調理部長、食品衛生担当課長などを歴任。日本エスコフィエ協会会員、全日本司厨士協会幹事会員。

 

 

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この連載のバックナンバー

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なぜ今、HACCPなのか?

第2回

HACCPは日々「使うもの」

第3回

HAとは? CCPとは?

第4回

一般衛生管理は

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第5回

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第6回

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第7回

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第8回

食材の鮮度、菌の鮮度

第9回

「食の安全」は情報戦の時代