元料理長が教える 今さら聞けないHACCP講座

 

第2回 HACCPは日々「使うもの」

 

2018年12月20日

 

 

HACCP導入を決めた施設が最初に行う仕事は、導入の中心的な役割を担うHACCPチームの編成です。高い意識で食品衛生に取り組んでいる施設であれば、すでに衛生管理の連絡会などを運営しているはずですから、その組織をそのままHACCPチームに移行するとよいでしょう。

 

新しくチームを編成する場合は、責任者を決めた後、各セクションから1名以上、担当者を選びます。このHACCPチームには、社長や支配人など施設のトップも加わることが理想です。難しければ、チームをトップの直轄組織とするか、定期報告の機会を設けるようにしてください。設備改修などの投資判断が必要になることがありますし、食中毒に伴う営業停止の報道でも分かるように、HACCP導入は経営上のリスク管理の一つでもあります。トップの理解やリーダーシップは、スタッフに食品衛生の大切さを浸透させ、着実な衛生管理を継続するうえで非常に大切です。

予算が許せば外部の力を借りよう

HACCPチームを編成し、準備に入る場合、その後の進め方については大きく2つの選択肢があります。HACCPに詳しいプロの力を借りるか、すべて自前で取り組むか、です。

 

予算が許せば、コンサルタントなど、HACCP導入に実績が豊富なプロの力を借りることをお勧めします。食品衛生の専任者を自前で育成すると、費用も時間も掛かります。HACCP導入を機に、食品衛生の教育や情報収集、チェック機能をアウトソーシングするという選択はあって良いと思います。

 

私自身、食品衛生のプロの力を借りて仕事をしていた時期があります。この時に、「外の目」で厨房をチェックすることの大切さを実感しました。これは日常の運営についても言えることですが、自分たちだけで衛生状態を点検すると、知らないうちに抜け・漏れが出る可能性があります。毎日見ている場所なので、汚れに目が慣れてしまうのです。最初に真っ白だった壁は、日々、少しずつ汚れていても、自分たちにはずっと白く見えてしまいます。外部の人であれば、思い込みなく、新鮮な目でチェックができます。HACCP導入の手法を教わる以外に、定期的に客観的な指摘をしてもらうことは有益だと思います。

自治体のサービスを積極活用

 

HACCP導入に自分たちだけで取り組む場合はどうすればよいのでしょうか。この時、心強い味方となるのが、自治体が実施する、食品衛生の認証制度です。防火安全に適合した宿泊施設に「マル適マーク」が付与されるのと同じように、食品衛生でも、管理が一定水準に達している施設に、自治体が認証を与えています。

 

東京都の場合、「東京都食品衛生自主管理認証制度」(略称「都認証」)という制度があります。食品衛生法がHACCPに沿った運営を求めているのですから、認証制度にもHACCPの考え方が反映されています。都認証の体系には、低い方から順に「エントリーステージ」「1stステージ」「2ndステージ」とあって、その上位に「都認証」があります。自分たちの衛生管理のレベルに応じて、段階的に上位のステージを目指していく設計になっています。

 

この種の制度の何が良いかというと、認証取得に必要な実務の講習会などを、無料もしくは実費程度の安価な費用で実施していることです。東京都の場合、マニュアル作成のセミナーや、取り組み状況の無料診断などが実施されています。こうしたサービスを活用すれば、HACCP導入について、かなりの情報が得られることになります。すべての都道府県や市町村が認証制度を設けているわけではありませんが、保健所に問い合わせるなどして、利用可能なサービスを探してみる価値はあると思います。

 

認証取得は目的ではない

ここで一つ注意点を。自治体の認証取得を前提にサービスを受けるにしろ、国際機関や民間のHACCP認証を取得するにしろ、認証の取得そのものが自己目的化してしまうことがあります。

 

私はよく「HACCPは認証を取るためのものではなくて、使うものだよ」と言っています。認証取得はゴールではありません。おいしくて安全な料理を提供する仕組みを構築し、それを続けていく(=使う)ためにHACCPを導入するのです。認証の取得はスタートでしかありません。認証を取るレベルまで引き上げた自分たちの施設の衛生管理を、日々の営業を通じて維持・向上させなければなりません。その推進役となるのがHACCPチームです。粘り強く、責任感のある人がメンバーに向いていることは言うまでもありません。

 

 

 

 

講師紹介

 

坂場一昭(さかば・かずあき)

坂場一昭(さかば・かずあき)

 

1952年1月東京生まれ。70年から調理の道に入る。京王プラザホテルを経て、80年にセンチュリーハイアット東京(現ハイアットリージェンシー東京)に入社。ガルドマンジェアシスタントシェフ、宴会シェフ、宴会厨房改修プロダクトマネジャーや調理部長、食品衛生担当課長などを歴任。日本エスコフィエ協会会員、全日本司厨士協会幹事会員。

 

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