元料理長が教える 今さら聞けないHACCP講座

 

第9回 「食の安全」は情報戦の時代

 

2019年2月12日

 

 

前回、カンピロバクターについて詳しく解説しました。加熱をせずに鶏肉や鶏レバーを食べることの危険性について認識をしていただけたのではないかと思います。しかし、「加熱すれば後は全てOK」とはいかないのが食品衛生の難しさです。

 

最近、鶏の唐揚げで集団食中毒が発生しました。高温の油で熱々に揚げるメニューなのになぜ? と疑問に感じられると思います。腸管出血性大腸菌O157に感染していた別の食材を扱ったトングで唐揚げをつかみ、交差汚染が起きたのだそうです。

 

食品衛生では、万全を期しているつもりでも、事故につながる盲点はあるものです。業界内で起きた事例を他山の石としながら、自分たちの施設における対応の抜け・漏れを潰していく活動が欠かせません。ウイルス等の短期的な流行などがある一方で、有用な知見や対策が発表されていたり、効果的な製品が世に出ていたりする場合もあります。「食の安全」も情報戦の時代です。知識をアップデートしていく心構えが大切です。

アレルギーへの注意も必要

HACCP導入で盲点となりがちな要素をここで説明しておきます。アレルギーに関する内容です。食品アレルギーによる事故は食中毒ではありませんが、提供したメニューが原因でお客さんの健康が損なわれる可能性がある以上、これも食の事故の一環と考えて対応する姿勢が求められる分野であると考えます。

 

食品の表示は、食品表示法で規定されています。この法律は、食品衛生法、JAS法、健康増進法の3つの法律の食品の表示に関する規定を一元化し、2015年4月に施行されました。食品表示法では、食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかな食品のうち、発症者数や症状の重症度が高い「特定原材料」7品目の表示を義務づけています。卵、乳、落花生、そば、小麦、カニ、エビです。

 

 

この特定原材料7品目とは別に、可能な限り表示をするよう推奨された「特定原材料に準ずるもの」20品目がリストアップされています。

 

 

表示義務のある7品目には乳や卵、小麦が含まれており、任意表示の20品目には牛肉や豚肉、鶏肉が含まれます。料理を作るうえでの主要食材の多くが、一部の喫食者にとっては健康危害を及ぼしかねない食材だということです。

 

以前、結婚披露宴の出席者から伺った「食べられないもの」のリストを眺めていたサービススタッフが「これって、ただの好き嫌いですよね」と発言したことがありました。アレルギーに関する認識が不足していると考えて、急遽、アレルギーに関する集合研修を実施しました。

 

この時、特定原材料7品目と、それに準じた20品目はあくまで発症数が多い食材というだけで、これら27品目以外にも、アレルギーを起こす食材はあることを伝えました。さらに、アレルギー対応で必要なのは適切な情報発信です。メニュー選びで「この料理の原材料は何か」と聞かれたときに正確な情報を伝えられるよう、サービススタッフも、提供している料理については、レシピを含めて理解することが大切であることなどを説明しました。

 

私は連載第6回のレシピを活用したHACCP導入法を説明する際に、「メニューごとに危害要因を分析して、その危害要因をコントロールするCCPを決めて、レシピに書き込んでいきます。さらに、アレルギーに関する情報もこれに加えます」と書きました。アレルギーに関する情報を付記しておくことで、お客様にアレルギーに関する正確な情報を伝えるうえでの基礎資料としても役立てることができるわけです。

情報収集もHACCPチームの仕事

HACCPチームは、こうした広義の食の安全について、情報感度を上げておくべきでしょう。購買担当者が食材を仕入れるのと同じように、最新の情報を仕入れることがHACCPチームの仕事の一つなのだと認識し、情報に向き合っていただきたいと思います。

 

情報を仕入れるうえで有効な方法の一つは、自治体の食品衛生の講習会に参加することです。管内で起きた食中毒の事例や、流行しているウイルス等の情報など、最新の情報が講習の内容に盛り込まれることが多いです。春に1人、秋に1人というように、チームで順番を決めて参加し、情報収集に努めるとよいでしょう。民間のサービスでも、食品衛生を専門に取り扱うウェブサイトやメール配信サービスなどが充実していますので、こうしたサービスに登録するのも有効です。

 

 

 

 

 

 

 

講師紹介

 

坂場一昭(さかば・かずあき)

坂場一昭(さかば・かずあき)

 

1952年1月東京生まれ。70年から調理の道に入る。京王プラザホテルを経て、80年にセンチュリーハイアット東京(現ハイアットリージェンシー東京)に入社。ガルドマンジェアシスタントシェフ、宴会シェフ、宴会厨房改修プロダクトマネジャーや調理部長、食品衛生担当課長などを歴任。日本エスコフィエ協会会員、全日本司厨士協会幹事会員。

 

 

提供 (株)フジマック 無断転載を禁じます。

 

この連載のバックナンバー

第1回

なぜ今、HACCPなのか?

第2回

HACCPは日々「使うもの」

第3回

HAとは? CCPとは?

第4回

一般衛生管理は

HACCPの土台

第5回

菌は歩けない

第6回

レシピを活用しよう

第7回

HACCPは楽なシステム?

第8回

食材の鮮度、菌の鮮度