元料理長が教える 今さら聞けないHACCP講座

 

第3回 HAとは? CCPとは?

 

2018年12月25日

 

 

HACCPは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの頭文字をつなげた略語です。これだけアルファベットが続くと苦手意識を持つ人が多いと思いますが、今回はHACCPの7原則12手順の骨格を理解いただけるよう、この略語の意味について解説をしながら、かみ砕いた説明を試みたいと思います。

「何が危ないか」を知る

HACCPは、「危害要因分析」と訳されるHA(Hazard Analysis)と「重要管理点」と訳されるCCP(Critical Control Point)に分かれています。7原則12手順の図を見てください。原則1がHA=危害要因分析になっていますね。Hazard(ハザード)は、自動車のハザードランプのハザードや、災害時に危険な地域を予測したハザードマップのハザードと同じです。食品衛生では、人の健康に悪影響を及ぼす危険のことで、これが「危害要因」に相当します。

 

フードサービスの現場には、危害が発生しかねない場面が多くあります。「腸管出血性大腸菌O157に汚染された肉を適切に加熱せずに提供した」「細菌の付着した食材を扱った包丁でレタスを切って、レタスが汚染された」などです。それが原因で食中毒が100%起きるとは言えませんが、食中毒などの危害が発生する可能性があるのは確かです。

 

自分たちの施設において、食材の仕入れから料理の提供に至る工程の中で、メニューごとに、危害が発生する要因がどこにあるかを調べること。これがHA=危害要因分析です。危害要因分析をするためには、どのような食材を使ってどのようなオペレーションをしているのか、などについて、レシピを含め正確に把握する必要があります。そうした危害要因分析の準備が、7原則12手順のうちの手順1から手順6に相当します。

重点的にコントロールする工程を決める

 

話を戻します。原則1のHAで調べた危害の要因は、料理を提供するまでに対策を講じないといけません。HACCPでは、危害発生を効果的に防ぐことができる工程、あるいはそれより後の工程になると、危害発生を防ぐ手立てが残っていないような工程を重点的にコントロールします。こうした重点的に管理するべき工程がHACCPの後半部分、CCP(Critical Control Point)になります。Criticalとは「決定的な」とか「重要な」という意味です。サッカーに例えると、ディフェンスの最終ラインやゴールキーパーに相当する工程はCCPとなります。

 

逆に言えば、いくら上流の工程で危害をなくすための措置を講じても、そこから先の工程で食品が汚染されては意味がありません。HACCPでは全体の工程を見て、重点的にコントロールをする工程を決めます。それが原則2になります。CCPは、食材の洗浄、加熱、冷却など、メニューごとに異なります。

 

この種の制度の何が良いかというと、認証取得に必要な実務の講習会などを、無料もしくは実費程度の安価な費用で実施していることです。東京都の場合、マニュアル作成のセミナーや、取り組み状況の無料診断などが実施されています。こうしたサービスを活用すれば、HACCP導入について、かなりの情報が得られることになります。すべての都道府県や市町村が認証制度を設けているわけではありませんが、保健所に問い合わせるなどして、利用可能なサービスを探してみる価値はあると思います。

HAとCCPだけで十分か?

 

さて、ここで、ご自身がレストランのお客さんになったと仮定してください。「この店の料理は安全ですか?」と尋ねたとき、「もちろん。何が危なくて、それを防ぐためにどの工程で手を打つのかを料理ごとに決めています」と返事をされたらどう感じるでしょうか。安心しますか。きっと、いろんな疑問が頭をよぎると思います。突っ込んでみてください。 「どんな対策をしているから安全だと言えるのですか。基準を説明してください」「その基準通りにオペレーションをしているかどうかはチェックできますか」「エラーが起きたらどうするのですか」。まだありますね。「その方法がベストだと言えますか。他の方法はありませんか」、さらには、「毎日きちんとやっている記録を証拠として見せてください」――。

 

意地悪で重箱の隅をつつくような疑問かもしれませんが、これらの疑問に答えられるだけの方法論が、原則3から原則7に当たります。原則3の「管理基準の設定」はCL (Critical Limit=許容限界)の設定とも言います。危害要因を除去する、あるいは許容できるレベルまでコントロールするときの基準です。この管理基準で代表的なのが、腸管出血性大腸菌O157対策で認知度が高まった、加熱調理における「芯温 75℃で1分間以上の加熱」です。

 

ただ、芯温75℃以上で長時間加熱したローストビーフは、断面はロゼ色ではなくすべて茶色となり、もはやステーキです。食味も大きく変わります。連載初回でも触れたように、HACCPは安全と食味の両立を目指しています。ですから「75℃・1分間以上加熱」以外は認めないのではなく、科学的根拠などに基づいたうえで、それと同等以上の効果がある場合は、違った対応も認めています。食材の特性、細菌やウイルスの特性などを総合的に検討し、食味も安全も守る、柔軟なシステムです。逆に言えば代替手段を講じられるだけの調理・食品衛生のノウハウの引き出しが求められます。

 

改めて7原則12手順の図を見てみてください。HACCPの考え方の勘所が以前よりご理解いただけたのではないでしょうか。原則4から原則7については、図にある言葉だけでおおよその意味を理解できると思います。今後、機会を見つけてこれらについても触れていくつもりです。

 

 

 

 

講師紹介

 

坂場一昭(さかば・かずあき)

坂場一昭(さかば・かずあき)

 

1952年1月東京生まれ。70年から調理の道に入る。京王プラザホテルを経て、80年にセンチュリーハイアット東京(現ハイアットリージェンシー東京)に入社。ガルドマンジェアシスタントシェフ、宴会シェフ、宴会厨房改修プロダクトマネジャーや調理部長、食品衛生担当課長などを歴任。日本エスコフィエ協会会員、全日本司厨士協会幹事会員。

 

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この連載のバックナンバー

第1回

なぜ今、HACCPなのか?

第2回

HACCPは日々「使うもの」